2019年10月22日に令和天皇の即位の礼が行われました。これに合わせて政府は「政令恩恵」を即日施行しました。
今回の恩赦の対象者55万人のうち、道路交通法違反によるものが65.2%と最も多いのですが、罪が軽減される恩赦とは、取り消された運転免許が戻ってきたり、免停期間が軽減されるのではないといいます。それよりも前科が取り消されるというような話が!
では一体、交通違反者にどんな恩赦がつくのか?また酒気帯び運転が原因で交通刑務所にいる服役者の場合は?なんて疑問が沸いてきました。今回の恩赦の対象者で恩典を受けるのはどのような人たちが調べてみました。
恩赦の範囲は「復権」のみ?
恩赦とは罪を無罪・軽減することで、今回の恩赦は以下の二つがあり、55万人というのは政政令恩恵の対象者をいいます。
(1) 政令恩赦
引用元:Yahoo News
罰金刑の執行を受け終わり、3年間再び処罰されていない者に対し、刑に処せられたため生じた資格の制限をなくす「復権」を一律に実施
(2) 特別基準恩赦
本人の出願に基づき、犯情や本人の性格、行状、犯罪後の状況、社会の感情等を個別に審査して実施
(a) 病気等で長期間刑の執行が停止され、なお長期にわたり執行困難な者に対する「刑の執行の免除」
(b) 刑を受けたことが社会生活上の障害となっている罰金刑の執行終了者に対する「復権」
今回の政令恩赦の対象者は、有罪による死刑・懲役・禁固(つまり牢屋に入る罪)の場合は対象外で、罰金刑の場合のみが対象です。
かつての政令恩赦では、有罪判決を無効にする(死刑、懲役刑を無効にする)「大赦(たいしゃ)」や、死刑を無期懲役、無期懲役の無期解除、懲役期間を短くする「減刑」がありました。
天皇の即位の礼でお祝いだから罪を軽減・免除するという合理的な理由がないという批判から「国民感情、特に犯罪被害者やその御遺族の心情等に配慮」したとして 恩赦の範囲は狭まれています。
罰金刑の対象者は?
政令恩赦の罰金刑の対象者55万人のうち一番多いのが道路交通法違反者ですが、他には過失運転致死傷等や暴行・傷害、窃盗が上位を占めています。道交法違反を含めて全体の9割近くを占めています。
それ以外には投票買収などで公職選挙法違反の約430人や痴漢や盗撮、児童買春、脅迫、器物損壊、名誉毀損、賭博、威力業務妨害、海賊版配信、危険ドラッグ所持、ストーカー、動物虐待など様々な罪名となっています。
ただこれらの刑事罰のうち懲役刑は恩赦の対象外。罰金刑となった場合のみが対象です。
道路交通法違反(交通違反)での罰金と反則金の違いって?
交通違反の罰金刑に該当するのは、違反点数が6点以上の重大な交通違反をいいます。6点以上の違反では赤切符が切られ、後日、裁判所(通常は簡易裁判所)に出頭し罰金が命じられます。
5点未満の場合は刑事処分に伴う罰金ではなく反則金です。すなわち刑事処分ではなく行政処分なので今回の恩赦の対象ではありません。交通違反での行政処分時には「反則金を支払う青切符」と「違反点数のみが告げられる白切符」があります。
罰金刑で復権するのは公民権や受験資格?
では罰金刑の対象者の恩赦とはいったいどんなものなのかといいますと、55万人とマスコミが騒ぐ割には、具体的にその恩恵を受けるのは一部の対象者のみです。
恩赦で復権されるのは、罰金刑に伴う制裁処置として制限された資格に関してのみということで、例えば行政処分は復権の対象にならないので「免許取消し、免許停止」が取り消されるとか「青切符による反則金」が返還されることはありません。
選挙違反者に公民権の復権
投票買収などで公職選挙法違反の結果、罰金刑を受けると自動的に5年の公民権(選挙権や立候補権)が制限(停止)されるが、3年以上終了していれば令和元年10月22日時点で公民権が復活するというもの。
運転免許取り消しの欠格期間は終了する?
免許取り消し処分による欠格期間(免許を再取得する権利がなくなる期間)については、行政処分のため今回の復権の恩赦で欠格期間が直ちに終了するものではありません。上述の「公民権の復権」のようなことにはなりません。
<お詫び>当初、本記事で「罰金刑に伴う制裁処置として制限された資格のため、今回の復権の恩赦で失格期間は終了する」と記載しましたが間違いでした。当ブログで混乱された読者の皆様に謹んでお詫び申し上げます。
医師免許などの国家試験の場合は?
医師免許の受験は、罰金刑を受けた場合でも運転免許の試験とは違い受験することはできるようです。
通常は合格しても医師法で定められた「医師免許の相対的欠格事由」で「罰金以上の刑に処せられた者」に該当するため、罰金刑の執行から5年経過していなければ医師免許が与えられない可能性があるようです。
運転免許証の受験資格の制限と状況は類似しているようですが、今回の政令恩赦で医師法の「医師免許の欠格事由」が復権するかどうかは厚生労働関係の資料には記載にないので、厚生労働省の対応次第のようです。要するに恩赦って曖昧な部分もあるんですね。
結局、交通違反者に復権される恩赦って?
罰金刑になった55万人のうち、今回の復権で実際に恩典を受けることがはっきりしているのは公職選挙法違反で5年公民権を停止されらた場合の復権ぐらい。その対象者はたったの430人程度。
前科の失効って?
交通違反者を含む55万人の対象者は、何が恩赦で復権されるのか?そのほとんどが「罰金前科の失効」のようで、つまり刑法で規定される「刑の消滅」ってやつでした。
交通違反者のみならず、痴漢も児童買春も、脅迫や危険ドラッグ所持、ストーカーなどその他すべての罰金刑で自動的に制裁処置として制限された資格っていうは「前科」というもの。
罰金刑の場合はその刑罰確定者の戸籍を管理する市町村の「犯罪者名簿」に有罪判決や科刑の記録が「前科」として登録されます。
罰金刑であれば5年の間に再び罰金刑や懲役刑を科されなければ、法律上、刑を受けたことがないものとして取り扱われることになっています。これが「刑の消滅」というもの。「犯罪者名簿」からは「前科」が削除されるというもの。
「前科」が削除されるのは戸籍を管理する市町村の「犯罪者名簿」だけで、検察庁が保有する「犯罪者名簿」には「前科」は削除されず、罰金刑の記載箇所に「復権令の記載」が併記されるようです。
前科の記録が2年縮まるだけ…
今回の政令恩赦は、「刑の消滅」が5年ではなく3年経過していれば、令和元年10月22日を以て「前科なし」と扱われるというものです。
但し交通違反による「前科」の登録は、戸籍を管理する市町村の「犯罪者名簿」には記載されず、検察庁の保有する犯罪者名簿にしか前科の登録はないようです。
いずれにしても、法律上、刑を受けたことがないものとして取り扱われるのが5年から最長2年に短縮されるだけのことですから、犯罪を繰り返す人にしか殆ど恩恵がないようです。
最後までご覧いただきありがとう御座います。
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